徒然五十音楽帳

ら・わ

羽田発七時五十分

昭和33年、歌はフランク永井さん。

今では当たり前の海外旅行ですが、一般の人々の海外旅行が自由化されたのは昭和39年のこと。それまでは業務や視察、留学などの目的が必要な認可制でした。お気楽な海外旅行の歴史は、まだほんの50年なんですね。

逆に言うと、それ以前の海外渡航には、自分の意志ではどうにもならない事情がつきものだったわけです。恋人と別れて行かねばならない。勝手に「行くのやめた」ということにはできない。簡単に「一緒に行こう」というわけにもいかない。

羽田発七時五十分。無関係な人にとっては単なる離陸時刻情報。しかし、ある人にとっては、愛する人との別れの場所と時間を示す重〜い言葉。その隔たりが哀しさを一層クローズアップしているようです。

ちなみに「狛江発十二時三分」というのは、狛江アドナインスでのライブ後、西荻窪まで帰るための終電時刻。これを逃すとたいへんなのです。(チコ)


ビューティフル・サンデー

オリジナルは1972年、ダニエル・ブーン作曲。世界的にヒットした曲ですが、私にとっては田中星児さんが歌う日本語バージョンの印象が強いです。

あのヘルメット的ヘアスタイル、大げさすぎる立ち居振る舞い、「素晴らしい」という日本語を「スバァ!スバァ!スバァ!」と思いきり切ってしまうという大胆さ。日本語版の出た昭和51年当時、多感な高校生だった私にとって、すべてに違和感がありました(笑)

ピンキーとキラーズが流行った時、私の父は「ピンキーのようにショートカットで、口をはっきりあけて、いつも笑顔であるのが良い」としきりに言っていました。だから、明るく・ハッキリ・スッキリしている田中星児さんを見るたび、「あのようなヘルメット的ヘアスタイルにしなさい」と父に言い出されたらかなわない…と用心していました。

今となっては、父は私の髪が長くても短くても、何も気にしていない様子です。だから今こそフラットな気持ちで、ビューティフルな心持ちでこの歌を聞いてみよう!(チャコ)


二つのギター

ロシアのジプシー音楽。誰がいつ頃作った曲なのかは不詳ですが、19世紀中頃に起こったジプシー歌謡の流行から生まれた曲だと言われています。

昔から演奏されてきたジプシーの伝統曲ではなく、ロシアの人が作ったジプシー風流行歌を、本家ジプシー音楽家たちもとりあげるようになり、民謡扱いとなって広まっていった感じです。

文字を持たないジプシーたち。その音楽に楽譜はなく、実演と口承だけで受け継がれてきました。独特な音階と節回し、旋律やテンポの急激な変化。彼らの音楽を記すには、一般的な楽譜のシステムは大雑把過ぎるのだそうです。

ジプシーの人達には過去・未来という概念がないそうです。今、この瞬間だけを感じる。明日までに何をしないといけないとか、来月分の料金をいつまでに振り込んでとか、そんなこと忘れてしまいたいものです。(チコ)


ベンのテーマ

『Ben』という映画の主題歌。テレビでフィンガー5のアキラが♪ベ〜ン、ぼくらはともだちィ〜、と歌い上げているのを聴いて好きになった曲。アキラとさほど年の変わらない私は当時まだ子供で、だから自然に「ベン」と聞いて「便」という漢字を思いながら聞いてました。

お腹をすぐこわしたり、便ピになったりする私にとって、「便」は重大な問題。その体質は現在でも解消されておらず、ベンは私の永遠のテーマなのです。

さて、歌の中のベンは、当然「便」ではなく、1匹のネズミにつけられた名前。後に映画を知り、ジャクソン5の、つまり英語の歌も聴きました。マイケルが、あの心にせまる歌声で♪ベ〜ン、と歌っています。

たいへん情緒的な曲ですが、子供の頃の第一印象が強かったせいか、後にジョージ・ベンソンとかベン・ジョンソンとか、その音を耳にすると自動的に漢字が頭に浮かぶ、そんな大人になりました。(チャコ)


何日君再来(ホーリーツィンツァイライ)

中国を代表する人気女優・歌手だったシュウ・センが1937年に歌った中国の歌謡曲。李香蘭さん、渡辺はま子さん、後にはテレサ・テンさんも日本語で歌っています。

原曲はアコーディオンの伴奏で、ビゼーの「カルメン」などでお馴染みの“ハバネラ”風のリズム。そこにチャイナメロディーが乗っかっていて、なんともお洒落。

昭和4年に赤坂にできたダンスホール「フロリダ」は日本のタンゴ音楽/ダンスの発祥地。そこで昭和7年から2年半に渡って生演奏をつとめた「巴里ムーラン・ルージュ楽員」というフランス人によるアルゼンチン・タンゴ楽団がありました。「何日君再来」の原曲の伴奏をしているのは、このバンドのアコーディオン奏者です。

戦前の日本、あるいは日中戦争前の中国では、ラテン音楽の芽吹きが起こっていたようです。もしもタイムトラベルができるとしたら、華やかで活気に満ちたこの時代の音楽を生で味わってみたいものです。(チコ)


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